健康寿命への意識と食生活の現状
加齢に伴う身体機能の低下、いわゆる「老化」は避けられない変化ですが、日々の食事、運動、睡眠といった生活習慣がその進み方に深く関わっています。
2026年6月に全国の20代以上の男女1,000人を対象に行われた「健康寿命(元気で長生きすること)と食生活に関する意識調査」では、健康寿命を意識して食生活を送っている人が53%と約半数以上にのぼることが明らかになりました。

具体的に実践していることとしては、「野菜・果物を食べる」(413人)、「魚介類を食べる」(328人)、「発酵食品を摂る」(274人)など、「何を食べるか」という食事の質に関する項目が上位を占めました。
一方、「食べ過ぎないようにする」(198人)、「塩分を摂りすぎないようにする」(194人)といった「食事の量・摂り方」に関する項目を実践している人は少ない傾向が見られます。また、食事以外の生活習慣では、「水分補給を意識する」(215人)、「運動をする」(168人)が上位に挙げられました。

注目すべきは、「病気や不調を感じたら早めに医療機関を受診する」と答えた人が81人にとどまっており、定期的な健康管理に比べ、不調時の早期受診意識が十分に浸透していない可能性がうかがえます。
老化のメカニズムと食べ方の関係
食品成分の健康機能や老化抑制作用を研究する福井県立大学生物資源学部生物資源学科の伊藤崇志教授は、健康寿命を考える上で「酸化ストレスや老化細胞の蓄積など、からだに負担をかける要因をできるだけ減らすこと」と「細胞の働きに必要な栄養を不足させないこと」が重要だと話します。

老化細胞とは?
老化とは、単に年齢を重ねるだけでなく、身体の細胞や組織の働きが徐々に低下していく変化を指します。若い頃は細胞のダメージを修復・処理する機能が十分に働きますが、加齢とともにその力が鈍ると、疲れやすさや筋力低下、回復力の低下などが現れやすくなります。
近年注目されているのが「老化細胞」です。これは、加齢や酸化ストレスなどでダメージを受け、分裂・増殖が止まってしまった細胞のこと。本来は傷ついた細胞が増えるのを防ぐ防御反応ですが、過度に蓄積すると炎症を引き起こし、周囲の健康な細胞や組織にも悪影響を与え、身体全体の機能低下につながる可能性があります。
食べすぎが老化を加速させる?
老化細胞を生む一因である酸化ストレスは、食べ方によって増減することがあります。健康寿命を意識するなら、「何を食べるか」だけでなく、「食べ方」も重要です。
慢性的な「食べすぎ」は酸化ストレスを増やす要因の一つ。必要以上のカロリーを摂り続けると、体が余分なエネルギーを処理する過程で酸化ストレスが増える可能性があります。特に若年期から中年期は、食べすぎによる酸化ストレスが蓄積しやすい時期だと考えられます。
実際に、健康な成人を対象に約15%のカロリー制限を2年間続けた研究(Redman et al., 2018)では、細胞を傷つけ老化を促す活性酸素の産生が有意に減少したことが確認されています3。無理のない範囲でカロリーを抑えるだけでも、身体への負担を減らし、老化のスピードを抑える可能性があると注目されています。
ただし、高齢期には食事量を減らしすぎると、たんぱく質やエネルギーが不足し、筋肉量の低下や体の衰えにつながるリスクがあります。年齢や体の状態に合わせて、必要な栄養はしっかり確保しつつ、余分な負担を減らすことが大切です。
健康寿命を延ばす!注目すべき3つの栄養素
魚介類に豊富な「タウリン」:老化細胞を減らす救世主?
魚、イカ、タコ、貝類といった魚介類には、体内環境や細胞機能の維持に重要な「タウリン」が豊富に含まれています。タウリンは細胞の浸透圧調整、神経や筋肉の働き、胆汁酸の抱合などに関わるだけでなく、抗酸化作用も持つことが知られています。
近年、タウリンは「老化細胞」を取り除く可能性があるとして、老化研究において大きな注目を集めています。伊藤教授らの研究(Ito et al., 2014)では、マウスの体内のタウリンを強制的に欠乏させると、細胞老化が進み寿命が短くなることが示されました4。これに対し、最新の研究(Singh et al., 2023; Tsuboi et al., 2025)では、タウリンを補給したマウスで寿命の延長や老化細胞の減少が確認されています5,6。これらの効果は現在動物実験段階ですが、今後のヒトでの作用解明が期待されています。
さらに、2026年3月の日本薬学会第146年会で発表された研究では、免疫を担うマクロファージを使った実験で、人為的に老化させたマクロファージにタウリンを加えたところ、正常な細胞には影響を与えず、老化したマクロファージだけを選択的に減らすことが確認されました7。これは、タウリンが老化細胞を選んで除去する働きを持つ可能性を示唆しています。

タウリンは水に溶けやすい性質を持つため、鍋やスープ、煮物など、煮汁ごと食べられる料理で摂るのが効果的です。
梅やりんごの「ウルソール酸」:筋肉維持に期待
いつまでも自分の足で歩き、活動的に過ごすためには、筋肉を維持することが欠かせません。梅やりんごなどに含まれる「ウルソール酸」は、筋肉量や筋機能との関連が研究されており、動物試験では筋萎縮の抑制や筋肉量の増加に寄与する可能性が報告されています。
ウルソール酸はりんごの皮や梅の果肉など、固形部分に多く含まれます。日常的に摂り入れるなら、りんごはよく洗って皮ごと食べる、梅は梅干しや梅肉など果実そのものを食べるのがおすすめです。
ナツメの「ベツリン酸」:細胞の老化を抑える
ナツメなどに含まれる天然由来の成分「ベツリン酸」には、抗炎症作用が報告されています。中国では古くから「1日3粒食べれば老いない」という言い伝えがあるほど、ナツメは健康に良いとされてきました。
近年では、このナツメが「老化細胞」との関わりから新たな注目を集めています。福井県立大学の研究グループが2023年に報告した研究によると、培養したヒトの皮膚細胞にベツリン酸を加えたところ、元気な細胞が増え、老化のサインが減ることが確認されました*8。これは、ベツリン酸が細胞の「老けた状態」への変化を抑える方向に働く可能性を示しています。

ベツリン酸は水に溶けづらいため、エキスよりも果実の固形部分に残りやすいと考えられます。乾燥ナツメなど、果実そのものを食事に取り入れることで、より効果的な摂取が期待できます。
今日から始める!健康寿命を延ばす生活習慣
健康寿命を延ばすには、食事だけでなく、日々の生活習慣を見直すことも大切です。今日からできる小さな工夫を始めてみませんか?
座る時間を減らす
デスクワークやスマートフォンの利用が増えた現代では、座りっぱなしの時間が長くなりがちです。長時間座っていると、身体活動量が低下し、筋肉量や代謝にも影響します。意識的にこまめに立ち上がる、少し歩く時間を増やす、エレベーターではなく階段を使うなど、日常の中で体を動かす機会を少しずつ増やしていきましょう。
無理のない運動を取り入れる
筋肉量や身体機能を保つためには、運動が欠かせません。ただし、激しい運動が良いというわけではありません。過度な運動はかえって身体に負担をかけ、活性酸素の発生につながることもあります。運動習慣がない人は、ウォーキングやストレッチ、軽い筋力トレーニングなど、無理なく続けられる範囲から始めるのがおすすめです。
夜の食事と飲酒を見直す
夜遅い時間の食事や飲酒にも注意が必要です。夜遅くに炭水化物やアルコールを多く摂ると、余分なカロリーになりやすく、身体に負担をかけることがあります。夕食が遅くなる日は、主食を控えめにしておかず中心にする、飲酒量を適量に見直すといった工夫が役立ちます。
まとめ:健康長寿は日々の積み重ねから
健康寿命を延ばすためには、酸化ストレスや老化細胞の蓄積といった身体に負担をかける要因を減らしながら、細胞に必要な栄養を不足させないことが重要です。そして、その基本を毎日の食事と生活習慣の中で無理なく続けることが、健康長寿への確かな一歩となります。
魚介類や野菜、果物、豆類をバランスよく摂り、座りすぎを避けて適度に体を動かし、夜は軽めに過ごす。こうした小さな積み重ねが、きっとあなたの健康寿命の延伸につながるでしょう。
1 厚生労働省. (2026). 令和7年簡易生命表の概況.
2 厚生労働省. (2024). 健康寿命の令和4年値について
3 Redman, L. M., et al. (2018). Metabolic Slowing and Reduced Oxidative Damage with Sustained Caloric Restriction Support the Rate of Living and Oxidative Damage Theories of Aging. Cell Metabolism, 27(4), 805–815.
4 Ito, T., et al. (2014). Tissue Depletion of Taurine Accelerates Skeletal Muscle Senescence and Leads to Early Death in Mice. PLOS ONE, 9(9), e107409.
5 Singh, P., et al. (2023). Taurine deficiency as a driver of aging. Science, 380(6649), eabn9257.
6 Tsuboi, A., et al. (2025). Taurine ameliorates cellular senescence associated with an increased hydrogen sulfide and a decreased hepatokine, IGFBP-1, in CCl4-induced hepatotoxicity in mice. Redox Biology, 83, 103640.
7 大正製薬株式会社. (2026). 日本薬学会第146年会 発表資料(2026年3月).
8 Odama, M., et al. (2023). Effects of Betulinic Acid on the Proliferation, Cellular Senescence, and Type 1 Interferon-Related Signaling Pathways in Human Dermal Fibroblasts. Journal of Agricultural and Food Chemistry, 71(18), 6935–6943.